「箸箱」と栗山夏代

ホームドラマには欠かせない家族揃っての「食卓シーン」、「雑居時代」でも栗山家全員が食事するシーンがたびたび登場します。洋館の栗山邸に和卓やこたつを置く「和洋折衷」の演出は趣きがありますが、何よりもこの食卓シーンに登場する「箸箱」が、観る者の興味を一層、引きつけます。

今日では、お弁当や「マイ箸」用に箸箱を使用しますが、家庭内で箸箱を使うなんていうことは、めったにありません。そのせいか、家族が食卓で箸箱から箸を取り出すシーンは印象に残ります。 
「雑居時代」第25話より
なぜ栗山家では箸箱を使っているのか?夏代さん、いちいち洗うの面倒じゃないの?美術スタッフが昔気質の人なの?みたいな、コメントが「雑居時代」のファンサイトにも寄せられていました。

ウィキペディアによると従来より、日本では箸を使用しない間、箸を箸箱に保管する人が多かったとのことです。箸箱を使う理由としては、昔の箸は現在の量産品とは違い、漆仕上げの手間暇かけたもので大切にしていた。とか、箸は西洋のカップと違い、使用者が決まっている「属人器」であり、各々が保管したいという日本人の「穢れ思想」に由来するもの、などが考えられます。

インターネットでも「昭和30年頃まで箸箱を家庭内で使っていたのを覚えている」、「大正生まれの祖母は嫁入り道具として立派な箸箱を持っていたそうだ」などのコメントが拾えました。1950年、60年代の映画にも家庭内で箸箱を使用しているシーンが散見されます。
1951年の小津映画「麦秋」では、紀子(原節子)が箸箱をちゃぶ台に残していきました。
1964年の成瀬映画「乱れる」では、幸司(加山雄三)がビールを飲み干した後、礼子(高峰秀子)が用意した料理を食べるため、まず、箸箱から箸を取り出していました。
成瀬巳喜男監督映画、「乱れる」より

要するに、昔は、箸を箸箱に保管するのは一般的だったが、時代の流れと共に、合理化された日本人の生活スタイルから、この箸箱は消えて行ったということでしょう。

「雑居時代」が初回放映された1973年には、箸箱を使う家庭は既に少なかったはずです。では、あえて箸箱を出した理由は何でしょうか?

やはり、これは美術の佐谷氏や千野皓司、平山晃生監督の栗山家や夏代像のきめ細やかな演出ではないかと思います。

おそらく、この「箸箱」の習慣は夏代さんが、大正生まれのお母さんから受け継いだものでしょう。夏代さんは食後の洗い物が終わり、寝る前にもう一度、台所の最後の始末をします。その頃には、箸や箸箱は乾き、「これは秋ちゃん、これはマリー」とつぶやきながら、みんなの箸を箸箱に入れ、翌朝すぐ食卓に並べられるようにしています。

「お勝手を仕切って」家族全員の世話をしている夏代さん。母性豊かで、勝気な彼女ですが、お母さんから受け継いだ「箸箱」の習慣を毎日、面倒とも思わず続けているところを見ると、ちょっと頑固なところもあります。

栗山家メンバーも、ごく普通に箸箱から箸を取り出し食事を始めているところをみると、古き良き伝統や習慣を、あたりまえとしている、やや保守的な中流家庭です。

この「箸箱」から、こういった栗山家の日常や夏代像が、目に浮かびませんか?

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