肉は肉屋さんで買っていた時代

「雑居時代」第2話、十一は金欠で、まともな食事をしていないことを知っている夏代さん達は、この日、夕食をビーフステーキにし、十一に見せびらかすことを画策していました。冬子(フーコ)が「お肉買ってきたわよ!」と、肉の紙包みを勝手口から台所へ持ち込んできます。

今であれば、スーパーマーケットのレジ袋を下げて来るのでしょうが、フーコが持っているのは紙包みのままでしたね。それは近くの肉屋さんで、「ステーキ用サーロイン特上、5枚ね!」と注文し、肉屋さんは慣れた手つきで塊をスライスし、量りに載せ、「ちょっと、おまけしとくよ」と言いながら、紙に包みます。そして、最後に輪ゴムでパチンと止め、「はい、おまち!」と、ズシリと重い紙包みをカウンター越しに渡してくれます。そんな光景が目に浮かびますね。




雑居時代」第2話「ビフテキにはトイレを」より

今なら、食材はスーパーマーケット1箇所で、パックになった肉や野菜をカートに放り投げて済ませてしまうところですが、あの頃は、買い物カゴをぶら下げて、駅前商店街で揃えていたように思います。「レジ袋」などありませんから、どの店でも古新聞や薄い包装紙にくるんだり、良くて、茶色い紙袋に入れてくれましたね。肉は肉屋、魚は魚屋で買っていた時代。夕暮れ時、活気ある商店街を歩くと、コロッケや焼き鳥の匂いなどが漂ってきて食欲をそそりました。

小田急線沿線のこの界隈、梅ヶ丘、豪徳寺、経堂、千歳船橋、祖師谷大蔵、成城学園前あたりは古くから開発されてきた住宅地で、高度成長期にサラリーマン層が増えました。「山の手、世田谷」の高級なイメージとは裏腹に、駅前の街並みは極めて庶民的です。各駅周辺では、大概、狭い道の両側に、肉屋、魚屋、八百屋、豆腐屋などが集まり、何でも揃う便利な商店街が形作られています。この雑多な街並みに昭和の風情を感じましたが、最近は小田急線の複々線化事業で、様相が変わりつつあり、淋しい気持ちです。

この辺では、古くから駅前商店街が発達していたせいでしょうか、スーパーの進出は遅かったように思います。1971年、経堂に開業した小田急OX(オーエックスと読みます)が、その先駆けだったように記憶しています。成城学園前では、ローカルな食料品店だった「石井」がスーパーの形態になったのが、かなり後の1976年。今では、高級スーパー「成城石井」として、あちこちに店がありますね。

ところで、映像をよく見ると包み紙に肉屋の名前が印刷されています。この肉屋さんは、小田急線と並行して走る京王線・八幡山駅前の「堀田牛肉店」です。残念ながら、この八幡山の店は、かなり前に閉店してしまいましたが、兄弟店が近隣の駅、下高井戸と烏山に今でも健在です。

「雑居時代」第2話を観ていたとき、たまたま知っている肉屋さんの包装紙が登場したので、少なからず驚きました。おそらく、撮影スタッフの誰かが、当時、京王八幡山駅の近辺に住んでおり、調布スタジオに来る途中に調達したものと想像しています。

先日、下高井戸店の包み紙をいただいてきました。39年経った今でも、ほぼ同じデザインの包み紙です。ちょっと、感動しませんか?




補足

手提げのついた袋、つまりレジ袋が開発されたのは1972年で、その利便性や低コストが注目されて一気に普及していったそうです。出典、舟木賢徳『「レジ袋」の環境経済政策』リサイクル文化社

コメント

  1. 素晴らしい。これは確かに感動しますね。
    私は、当時と同じ(と思われる)八ツ橋の缶ケースを、雑居時代に登場しているとは知らずに数年前に処分してしまったことを、いまだに後悔しているくらいですから、なおさらです(笑)

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  2. 「雑居時代」には食べ物がよく登場しますね。第8話の「三角豆餅」はとても美味しそうです。このシーンに写っている豆餅の包み紙(深緑色)にも、店の紋らしきものが見えるのですが、ちょっと判別つきません。心当たりありますか?結構、老舗っぽい雰囲気ですが...

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  3. 八ッ橋の缶ケースですが、京都には八ッ橋を作っている会社が多数あります。「雑居時代」第16話と第25話で使われた八ッ橋の缶は、井筒屋本舗のもので、確か今でもほぼ同じデザインだったと思います。

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    1. phapapionさん
      ありがとうございます。いつまでも、変えないでいてほしいですね。

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