雑居時代 ロケ地の楽しみ(17) 多摩川河川敷

『雑居時代』第23話は、マリー、夏代さん、十一、3人の心情のやりとりが上手く描かれた秀作。私の好きな回の1つです。

夏代さん達のお母さんはマリーを産んだ時に亡くなりました。1973年の9年前ということは1964年、ちょうど東京オリンピックが開催されていたころですね。当時、夏代さんは17歳の高校3年生。その後、彼女は進学も就職もせず、家族の世話をするお母さん業に専念しました。すなわち、夏代さんにとって、マリーは、生まれたときから世話をしてきた子供みたいな存在。「お母さんがいないんだから、一人前に育てるのはあたしの責任だもの」という言葉に、夏代さんの思いが感じられます。

マリーは、と云うと、夏代さんに母親像を求めながらも、夏代さんの口うるささを疎ましく思い、夏代さんがうっかり参観日を忘れていると、 「都合が悪いんなら来てくれなくてもいいわよ。お姉さんはお母さんとは違うんだから」と不満をもらすことも。どうも、気持ちが通じ合えないふたりですが、マリーが難しい年頃になって来たっていうことかもしれませんね

第13話で、マリーの出生の秘密を十一から知らされた夏代さん。マリーに対する思いは、複雑なものがあったのは言うまでもないこと。十一も、いつしかマリーを本当の妹のように思い、ずっと守ってやりたいという気持ちが芽生えてきたことも確かでしょう。「お兄ちゃん、いつまでもおチビちゃんのそばに居てやるつもりだ」 マリーに言った十一のこの言葉には、決意みたいなものも感じられます。

この3人のそれぞれの思いは、やがてラストシーン、多摩川河川敷で1つとなります。

枯れ草に座る十一と夏代さん。河原を駆けるマリーと健一(マリーの友だち)。そのふたりに自分たちを重ね合わせる、十一と夏代さん。「夏ねーちゃーん」と叫びながら、駆け戻ってくる、マリーと健一。夏代さんの胸に頬を寄せながら、「本当のママみたい」と涙ぐむマリー。ようやくマリーと気持ちが通じ合えた夏代さんに、「良かったな、ママさん」と声をかける十一。少し照れながら、「何よ」と返す夏代さん。

冬の河原を歩く、マリー、夏代さん、十一は、まるでひとつの家族のようでした。十一と夏代さんの間も、この回でかなり距離が縮まった感じがします。第25話、26話のフィナーレに繋ぐ、伏線といったところでしょうか。


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さて、この多摩川河川敷は、日活の映画や石坂洋次郎ドラマ、ユニオンの石立ドラマにたびたび登場します。撮影所の近くにある広々としたこの場所は、スタジオセットから飛び出して、ガラッと気分を変えるシーンなどに持って来いなんでしょうね。京王多摩川駅から線路沿いに歩くと、すぐに多摩川河川敷に降りられます。今はサイクリング・ロードやフットサルのピッチなども整備されています。

上のカットと同ポジションで撮影した写真です。正面に見える京王閣、京王線の鉄橋、松林は当時とあまり変わっていませんね。

2016年1月11日撮影。

下は、マリーと健一の姿に、自分たちの未来を重ねあわせた十一と夏代さんが、想像で石を投げるシーンと、その同ポジション写真。彼らの奥手に、多摩川の土手(稲田堤)、その向こうには、読売ランドがある丘陵(南山)が見えます。 夏代さんの左手奥に見える塔は今も健在のようですね。稜線も当時の感じを保っています。ドラマの映像は奥手にモヤがかかって、いい感じになっていますが、よく考えると1974年当時の東京の空気は、結構汚れていたということかもしれませんね。


 2016年1月11日撮影。

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『雑居時代』、第20話にも、この多摩川河川敷が登場します。下は、十一が草野球に参加するシーンと、その同ポジション写真。京王線の鉄橋、奥手に見えるよみうりランドの丘陵は変わりませんね。


2016年1月11日撮影。

同じく、第20話。土手を歩く十一と秋枝。彼らの背後に見える鉄塔や、その左手の松林は変わっていないようです。


2016年1月11日撮影。

第20話、土手で焼き芋を食べる十一と秋枝。十一の背後に見えていた、松林と河川の杭は今も健在。消火栓と同じく、こういった公のものは変わらないので、ロケ地の特定に役立ちますね。


2016年1月11日撮影。

いかがでしたか? 多摩川河川敷からの風景は、今のところ、グーグル、ストリートビューでは見えないので、第20話、23話が撮影された冬の時期を狙って、現地に行ってみました。石を並べた土手など、当時の面影が残っていて、少なからず感動しました。こんな風景をわざわざ撮影するのは、『雑居』ファンしかいないでしょうけどね(笑)。

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