あの頃の大原麗子さん(14) ひょっとこ顔がターニングポイント?

1970年代後半からの大原麗子さんの出演作を俯瞰してみると、彼女が演じる役柄の幅広さに、今さらながら驚かされます。可愛い女性、いさぎよい女性、耐える女性、強い女性、時には悪い女性。時代劇から現代劇、彼女はあらゆるタイプの女性像を演じ続けてきました。

しかし、初期の出演作を観る限り、彼女は器用な女優では無かったと思います。デビューの頃はおきゃんで、突っ張った役柄が多く、まともに女性像を演じるというような機会も与えられなかったこともありますが、役者としての幅も、まだまだというのが正直な印象でした。

世間一般には、そんな彼女が女優として開花したのが、1974年、NHK大河ドラマ『勝海舟』と言われています。ご本人も出演作と自負できるのは、このドラマが最初であると思っていたようです。まあ、それはそれとして、本当はその直前の出演作である『雑居時代』が、女優としてのターニングポイント。雑居ファンの間では、これを定説としたいところですね。

『雑居時代』第12話。フーコ達が「みかん娘」のアルバイトをしていると知った夏代さんは、十一にその場所へ案内するように言い、二人で出かけることに。

新宿西口の歩道。いつものように口喧嘩を始めるふたり。「君がイカしてるって?じゃー、試してみよう。すれ違う男が君を振り返るかどうか」と、十一は夏代さんを先に歩かせます。しばらくすると、すれ違う人は皆、何故か夏代さんを振り返るように。実は、夏代さんが「ひょっとこ顔」をしていたというのがトリック。
私が知る限り、彼女がこのような役を演じたのは、これが初めてです。それまでの彼女のイメージとコメディーが結びつかず、このシーンを観た時、「こんな役もできるんだ!」と少なからず驚いたのを覚えています。シリアスなものよりコメディーを演じる方が難しいと言われますが、彼女の役者としての技量が一段上がった瞬間だと言ってもいいでしょう。

この「ひょっとこ顔」から、ラストまでの展開は、雑居ファンの間でも評価が高く、特にラストの稲葉スタジオでの十一と夏代さんのやりとりは名場面の1つです。この第12話の監督は平山晃生氏。豊田四郎監督の門下出身です。豊田四郎監督といえば、『夫婦善哉』に代表されるように、男女のやりとりの機微を、表情や仕草のカットを紡いで表現する独自の手法で定評があります。

この第12話の他、十一と夏代さんのやりとりの中で評価が高いのが、同じく平山監督の第21話「中華まんじゅう」、第22話「天重」および「岸体育館前」シーン。これらのシーンでは、表情や仕草のカットを紡いで、ふたりのやりとりの機微を面白く、そして見事に表現しています。この平山監督の演技指導や手法は豊田四郎監督の流れを汲むものと言っていいでしょう。

ちょっと大胆な発想ですが、大原麗子さんの女優としてのターニングポイントは、『雑居時代』第12話「ひょっとこ顔」シーン。彼女が役者として開花するきっかけを作ったのは、豊田四郎門下の平山晃生監督。大原麗子さんには、「あら、そうだったの?」なんて言われそうですけどね。

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上のカットのロケ地写真です。
2014年12月29日、撮影。現在の河合塾新宿校の辺り。夏代さんの背後に見えていた消火栓は今でも同じ位置に健在。

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