Don't call me Daddy だったはずが......

プロデューサーと題名を考えていた時、最初に浮かんだのが Don't call me Daddy。これで行こうとなったが、当時は英語のタイトルはダメですよ。結局、パパと呼ばないで、になってしまった。

昨年、松木ひろし氏がTBSラジオ・石立鉄男特集に生出演したときに、このドラマタイトルに関する裏話を披露してくれました。『パパと呼ばないで』、初回放映された当時は、とても変わったタイトルをつけるものだと思っていました。なるほど、もともと英語の題名にしようと企画していたわけですね。

第2話。日曜日、右京は以前よりアプローチ中だった会社のエレベータ係、ユキちゃんからドライブに誘われます。ウキウキとお米屋さんを出た右京。大通りで車を止めて待っていたユキちゃん。右京は彼女に手を振ります。その時、現れたのが、猫を抱いたチー坊。「パパー、パパー、行ってらっしゃい」、チー坊は無邪気な笑顔で右京に手を振ります。険しい顔をするユキちゃん。「いや、この子は姉さんの....」と、慌てて説明しようとする右京。この時の心境は、

Oh, God, don't call me Dad, Chi-bo.....

てな、感じでしょうか?

無邪気で、オマセで、愁いが有って、時には大人に突っぱてみせ、時には不思議なお色気で周囲をドギマギさせる六歳の女の子、チー坊....(松木ひろし氏、『ザ・テレビジョン』、1983年5月20日号のコラム) 

チー坊のこのキャラクターは、ドラマを通して最初から最後まで、変わりません。一方、姉を母親代わりとして育ってきた右京は、チー坊やお米屋の人たちとの交流を通じて、家族というものを知っていく。父親として、そして、何よりも人間として成長していく。

いわば、チー坊は狂言回しで、本来の主役は28歳の独身男、右京。彼が、チー坊のパパになるため、教育のことで悩んだり、チー坊のママに不向きな彼女と別れたり、チー坊を里子に出すことに迷ったり、と幾つもの苦難を乗り越えていく。このドラマはそんな右京の姿を笑いとペーソスで描いていくことを狙ったドラマだったはずです。そして、タイトルは右京のやるせなさを表したような「Don't call me Daddy」だったのでしょう。

ちなみに、このドラマで石立鉄男さんの名がクレジットに初めてトップに来ています。『パパと呼ばないで』は、石立鉄男さんの(連ドラ)初主演作品なんですね。

ところが、そのタイトルが表す狙いで始まったこのドラマ、天才子役、杉田かおるちゃんのインパクトが強烈だった為か、回を重ねるにつれ、だんだん、主役であるはずの右京よりもチー坊の比重が大きくなっていきます。チー坊とおばあちゃん、チー坊と精太郎、チー坊と園子、シナリオも、当初の狙いとは変わってきて、右京がパパになる奮闘記というより、チー坊を主役にドラマが回っていくようになります。

荒木功氏(当時、助監督)は、昨年のTBSラジオ・石立鉄男特集のインタビューに答え、次のように語っています(要約)。

「どんなにいい芝居をしても、注目は相手役の杉田君に集まってしまう。あの頃、彼は本当に悩んでいました。眠れないから、睡眠薬を飲む。睡眠薬を止められると、今度は(強くない)酒を飲む。へべれけに酔って、遅刻が多かった。撮影の途中、行方不明になることもあった。どうやって、杉田君と対峙していこうか、真剣に考えていたと思う。ですが、そんな緊張感があったからこそ、みなさんから受け入れられる作品になったのだと思います」

このドラマが、名作になり得た理由。もちろん、企画やシナリオの面白さ、それに加え、天才子役、杉田かおるちゃんの出現などが挙げられるでしょう。しかし何よりも、その杉田かおるちゃんと対峙して、真剣に役に向き合った石立鉄男さんの芝居があったからこそ、幾つもの珠玉のシーンが生まれたのだと思います。

CSチャンネルNECOでは、また『パパと呼ばないで』の放映が始まりました。杉田かおるちゃんへの注目も然ることながら、石立さんがどのような芝居をしていたのか、もう一度、じっくり観てみたいと思います。

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『パパと呼ばないで』では、石立鉄男さんは初めて主演の座は取ったものの、ある意味、完全な主役ではなかった。しかし、このドラマの成功があったからこそ、次作の『雑居時代』が制作されたわけですね。杉田かおるちゃんは雑誌のインタビューで、次のように語っています。

.....『雑居時代』の頃くらいかな、石立さんの中で、「コメディで俺、トップ行けるかも」という欲が出始めたみたいでした。

ちょっと意外でしょうが、『雑居時代』で、石立鉄男さんは名実共に、主演・主役となったわけです。

パパと呼ばないで、第2話より
どんなにいい芝居をしても、注目は相手役の杉田かおるちゃんに集まってしまう。この子と、どうやって対峙すべきか?

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