あの頃の大原麗子さん(6) サントリーCMに写された10年間

大原麗子さんが出演したサントリーレッドとオールドのCM、1980年3月放映の第1作目、『雷篇』と名付けられたものから、1990年9月の『ニューヨーク篇』まで、10年間に27作品が放映されました。このCMシリーズが開始されたとき、大原さんは33才、そして、終了は44才の誕生日を迎える頃でした。

姿の見えない亭主に、泣いたり、笑ったり、怒ったり、表情と仕草のみで情緒豊かに「妻」を演じる大原さん。このCMの演出を手がけた市川崑監督は、彼女が思うがままに演技をさせていたそうです。彼女の身内の方の証言にもあるように、このCMに写っているのは「そのままの姉、大原麗子」。このCMシリーズは33才からの10年間、その時々の「素」の彼女をストレートに伝える「記録映画」のような存在でもあります。

この27作品を、彼女の年表に入れてみました(下図)。その時々の出演ドラマや映画、私生活の出来事などを重ねてみると、各作品に写された彼女の姿がもっと、よく理解できます。

例えば、シリーズ2作目、『リュック篇』。そこには幸せで、満たされた表情の彼女が写っています。この作品が撮影されたのは、森進一氏と結婚して間もない頃だったんですね。


1980年9月、『リュック篇』より


















格調高い和洋折衷の館に住み、好き勝手に仕事や趣味に明け暮れる亭主。その亭主に、怒ったりしながらも、甲斐甲斐しく世話を焼く妻。このCMの代表的なイメージは、そんな感じでしょうか。しかし、そのイメージとは程遠い異色の作品があります。1984年10月の『湯上りの女篇』です。

西洋絵画を背景に、日本髪に結った湯上りの女性が浴衣姿で涼む。それだけのシーンですが、このCMの彼女からは、なんとも言えない「凄み」が感じられます。

1984年10月、『湯上りの女篇』より


















このCMと同じ時期に市川崑監督の映画『おはん』が公開されています。おそらく、市川組は『おはん』の撮影の合間か、直後に、同じ東宝・砧スタジオでこのCMを撮影したのでしょう。このCMだけ、彼女の様相が、いつもの「良妻」とは異なり、芸者風なのも、その影響かもしれません。

そして、このCMを撮影した時期は、森進一氏と離婚する直前でした。彼女にとっては、2度目の離婚。うまくいかない結婚生活で、辛い日々を送っていたはず。市川監督は、そんな彼女の姿をそのまま写したのだと思います。このCMに写る彼女からは、哀しさ、辛さ、そして、「負けないよ」とでの言っているような強さも感じられますね。

1989年11月、『冬眠篇』より


















1989年、大原さんは押しも押されもせぬ「国民的女優」としてNHK大河ドラマ『春日局』で主演を努めます。第25作目『冬眠篇』の撮影は、おそらく『春日局』の収録が無事終了した直後だと思われます。

平均視聴率32.4%と、大河ドラマ歴代3位の高視聴率で、無事、責任を果たした彼女。どうですか、その安堵感と貫禄さえ感じられますね。

作られた演技が伝えるものには限界がある。
人々を感動させるのは、内面からにじみ出てくる「魂」の演技。

このCMシリーズが今でも、人々を魅了し続ける理由もそこにあると思います。その映像・音声から伝わってくるものは、大原麗子というひとりの女性の「魂」そのものです。

可愛さ、ひたむきさ、強さ、優しさ、凄さ、淋しさ、辛さ、そのままの彼女を写した市川監督の感性と技にあらためて脱帽します。



補足


出典、ドラマデータベース、日本映画データベース、他。


このCMシリーズ、27作品のほとんどは、以下の2つのDVDに収録されています。

1.角川映画、DVD『スタイル・オブ・市川崑』、 
2.エイベックス・マーケティング、DVD『もう一度観たい日本のCM50年』、 

『スタイル・オブ・市川崑』の解説書によると、日付はおそらく作品が完成した日とのこと。

このCMを企画した博報堂の藤井達郎氏は、肺がんのため、1985年に急逝されました(正確なご命日は不明)。おそらく、1986年2月の『隠しごと篇』までは、藤井氏の企画だと思われます。その後、1年以上のブランクがあり、1987年6月に、別のプランナーにより『ゴルフ篇』が制作されたのだと推測されます。

サントリーレッド(レッド・スペシャル含む)

1980年3月18日、雷篇
1980年9月6日、リュック篇
1981年3月20日、仲直り篇
1981年11月2日、絵本篇、
1981年11月2日、ベースキャンプ篇
1982年2月19日、雲海篇
1982年8月17日、ありがとう篇
1982年10月27日、男は寒がり篇
1983年3月9日、お迎え篇
1983年3月12日、電話篇
○1983年8月17日、お漬物篇
1983年11月4日、ラグビー篇
1984年3月27日、一番星篇
1984年10月26日、湯上りの女篇
1984年12月25日、雪だるま篇
1985年4月9日、磯釣り篇
1985年9月16日、結婚記念日篇
○1985年10月11日、スケッチ篇
○1986年2月27日、隠しごと篇

○1987年6月3日、ゴルフ篇
1988年3月22日、おにぎり篇

サントリーオールド

1989年3月22日、お出かけ篇
1989年6月10日、停電の夜篇
○1989年8月27日、テニス篇
1989年11月11日、冬眠篇
1990年1月27日、たまには恋人篇
1990年9月29日、ニューヨーク篇

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