神代団地、日本が元気だった頃の風景

東京・調布市と狛江市にまたがる広大な敷地に、59棟ものアパートが立ち並んでいます。UR都市機構(旧、住宅公団)の神代団地(じんだい・だんち)です。神代団地は、高度成長期に都心人口の急激な増加に対処するため建設されたマンモス団地の1つで、1965年に入居が開始されました。

この団地は、日活、大映、東宝などの撮影所が近くにあるせいか、昔からたびたび映画やドラマの撮影に使われてきました。庶民の生活を象徴する風景になったり、逆に、無駄を削ぎ落したデザインがモダン・アートの雰囲気を出したりして、画作りに格好の材料だったんでしょうね。ちょっと、調べたところでも、以下のような映画、ドラマに出てきます。

成瀬巳喜男監督 『乱れ雲』 

『泣いてたまるか』 第5話、38話、76話、
『ウルトラマン』 第27話、
『太陽にほえろ』 第48話、59話、
『大都会』 第27話

『泣いてたまるか』 第38話「純情くん」より
『雑居時代』 第14話にもこの団地が登場します。

大晦日の日、稲葉先生の借金を返しに武田さんのアパートを訪れた十一。武田さんの息子、ケン坊(水野 哲さん)に無理やり頼まれ、チリ紙交換をすることになります。十一が運転するチリ紙交換のトラックが走っていたのは、神代団地敷地わきの道でした(狛江市・西野川1丁目、背後に写っているのは46号棟)。

ケン坊が蕎麦屋から出てくる女性を指し、「あ、お母ちゃんだ!おい、止めろよ、止めろよ」と、叫んだときのシーンです。

『雑居時代』 第14話より

2012年5月5日撮影
トラックが団地を回っているだけのこのシーン、何のことはない、ごく普通の光景ですが、今あらためて観ると妙に印象に残ります。

元気だった、当時の日本の匂いがするんですね。

各戸のベランダからは、お父さん、お母さん、子供たちの汗を吸い込んだフトンが一斉に干されて、冬の日差しをいっぱいに浴びています。そして、一番左端に写っているのは、お肉屋さん。店の人がせわしそうに動いています。

その右隣は小児科医院、さらにその右隣は耳鼻科医院です(映像ではわかりませんが)。

伸びざかり、遊びざかりの子供達にコロッケやハンバーグ用の肉を供給するお肉屋さん。そして、小児科や耳鼻科の待合室には、子供たちが泣いたり騒いだりする声が聞こえてきそうです。

不思議と、活気が感じられますね。

当時はちょうど、「オイルショック」の直後。騒然とした空気と経済の停滞感が入り交ざった時期でした。でも、悲壮感はなかったように思います。

野球では読売巨人軍がV9を達成し、テレビをつけると、西城秀樹、郷ひろみ、野口五郎の御三家、山口百恵、桜田淳子、森昌子の三人娘、そして、天地真理、南沙織、小柳ルミ子....70年代歌謡の全盛期です。オイルショックなんかに負けないぐらい日本全体が元気だったんですね。

同じ場所を先日、撮影し、いっしょに掲載しています。昔、お肉屋さんだったお宅は既に廃業して、赤い庇だけが残っています。小児科と耳鼻科だった、それぞれのお宅も家を建て替え、すでに医院は閉めています。団地の子供の人口が減ってしまった影響でしょうか。

小奇麗で豊かになった日本、でも、どことなく淋しさが漂います。


補足

この耳鼻科医院だったお宅は、建て替える前、同じく石立ドラマ『気になる嫁さん』で、坪内めぐみ(榊原るみ)のおばさん(杉葉子)の歯科医院として、玄関付近を撮影に提供しておられました。写真はかつてドラマで「坪内歯科」の入り口だった所。(許可をいただいて、掲載しています)
2012年4月29日、撮影



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