父子草

今月の日本映画専門チャンネルで映画『父子草』が放映されました。以前より、日本映画ファンの間では隠れた名作として語られていましたが、滅多に放映されることなく埋もれていた作品です。

渥美清が戦争帰りの荒くれ者、石立鉄男が貧しい予備校生、淡路恵子がおでん屋台の女将、星由里子が石立鉄男の彼女役、物語のほとんどはこの4人で進められていきます。

渥美は故郷の佐渡ヶ島から徴兵され、終戦後もシベリアに抑留、やっとの思いで故郷に帰ってみれば、渥美はとうに戦死したと伝えられ、妻は渥美の弟と世帯を持っていました。故郷に居場所が無い渥美は、以来、あちらこちらの飯場を渡り歩く日雇い人夫暮らし。一方、石立は夜警のアルバイトをしながら大学を目指す貧しい予備校生。そんなふたりが、淡路恵子営むガード下のおでん屋台で出会います。

酔った渥美が石立に絡み、「よーし、表に出ろ」と、ふたりは屋台横の空き地で取っ組み合いの喧嘩。翌日、またもや屋台で鉢合わせたふたりは、昨晩の決着をつけるのだと言い、相撲とも柔道とも言えぬ取っ組み合いを始めるのでした。

そんなふたりでしたが、渥美は故郷に残してきた息子と石立を重ね合わせ、いつしか石立に親しみを憶えるようになります。そして、渥美は石立の安アパートを訪ね、弱気になって泣き言を吐く石立を我が子のように励まし、「アルバイトは止めて、勉強に集中しろ」と日雇いで稼いだ金を石立に渡すのでした。

さて、結末はどうなるのか。まだご覧になっていない方のために、ここでは、誰もが感極まり思わず涙するラストシーンとでも書いておきましょう。是非ともご覧いただきたいと思います。

 
 1967年、東宝・宝塚映画。監督・丸山誠治、脚本・木下恵介、主演・渥美清

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ところで、淡路恵子が営むおでん屋台は踏切そばのガード下という設定。映画では木下忠司の劇伴とともに、踏切の「カン、カン、カン、カン」という警報音が効果的に使われ、なんとも言えぬ哀愁を漂わせています。

ネットの情報によると、ロケ地は意外にも阪急石橋駅近くとのこと。宝塚映画の作品なので撮影も阪急沿線ということでしょう。

右側に見える高架道路を手がかりにグーグルで検索してみると、ありました、阪急箕面(みのお)線が国道176号線と交差する辺りの踏切です。10年ほど前、関西方面に赴いた際に撮っておいた同ポジションの写真がありましたので、以下に掲載します。


阪急石橋駅の踏切(2019年に石橋阪大前駅と改名)、2012年5月3日撮影。

右側の高架は国道176号線。そのアーチ型の高架の一つ手前がおでん屋台のロケ地。このアーチ型の高架は映画にも登場します。尚、撮影当時はアーチ型高架の下に線路はありませんでした。その後、阪急箕面線が宝塚線に乗り入れるために増設された線路だと思われます。

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