雑居時代 ロケ地の楽しみ(19) 第14話「ケン坊」のアパートを探す

大晦日、大掃除やお正月の準備と慌ただしく過ごしている中、私は何故か決まって『雑居時代』第14話を思い出します。その理由は、この第14話が大晦日の一日を描いているからということもありますが、この回が全26話の中でも異色で、私の中で妙に印象に残っているからではないかと思います。昨年の大晦日もこのブログで第14話についてあれこれ書きましたが、今年も思い巡らすところを少し書き連ねたいと思います。

この第14話は、第1話から13話までの松木ひろし氏の脚本による1クールが終わり、次の1クールへの谷間を埋める為に、千野皓司監督と葉村彰子(創作集団SHPの共同ペンネーム)の脚本により制作された回です。おそらく、千野監督の草案に基づき、葉村彰子の若手脚本家が色付けしたもの思われます。その為か、松木ひろし氏よりも千野監督の色が反映されています。

まず、私が気になっているのは、夏代さんが、第13話までと比べて、家庭的でちょっと古風な女性に演出されている点。例えば、オープニング・クレジット後の最初のシーンでは、夏代さんがお正月用にのし餅を切り分けています。当時も既に真空パックの餅は普及していましたが、おそらく、栗山家では、近所のお米屋か和菓子屋に木箱で配達してもらった、つきたての「のし餅」を大晦日に切り分けることが、毎年の恒例になっていて、夏代さんはお母さんから受け継いだその方法で、正月準備をしている...という様な設定でしょう。

「おさんどん」で「勝手を仕切っている」夏代さんですが、第5話では、信に会社で背任の疑いが掛かっていると知ると、会社へ抗議に乗り込もうとしたり、第7話では、家出をしたりと、松木氏の夏代像が勝ち気で熱血漢のキャラクターを全面に出しているのに対して、この第14話では、もう少し家庭的で古風な感じに演出されているように思います。

熱を出して寝ている十一に、夏代さんがお粥を作るなどいう設定も、第13話までの夏代さんから比べるとより家庭的です。それにしても、大掃除や正月の準備で忙しい中、十一の為に、わざわざお粥を作ってくれる夏代さん、いいなあ....と感じる夏代ファンは多いのではないでしょうか。


十一も第13話までと比べて少しトーンが異なります。大晦日、借金の支払いや、ちり紙交換を引き受けたりと、ドタバタを繰り広げるあたりは松木トーンを踏襲していますが、みすぼらしい武田のアパートで、稲葉を山で助けた時の武田の手の傷跡を見た十一が、孤独と不安を覚えるシーンなどは、異色でシリアスな感じがします。

また、武田のアパートを出て、雪がちらつく中、公衆電話ボックスにたどり着いた十一が、高熱でもうろうとしながら編集長に語りかけるシーン。「編集長、今、ボクの周りには誰もいないんです。おやじもおふくろも、稲葉先生も。人を信じていいのか、信じちゃいけないのか。神谷さん、ボクを殴ってください...」こういった十一の心の内面を描く辺りにも、映画出身の千野監督の色が濃く出ていると思います。乾いたライトコメディーを基調とする松木氏の脚本では出てこないシーンです。

第14話に続き第15話も、同じく千野監督と葉村彰子の脚本によるもので(DVDのクレジットは松木ひろし氏と表示されていますが、間違いでしょう)、夏代さんをより家庭的で古風な女性に演出し、十一の心の内面を描いたりしています。例えば、夏代さんがお粥を持ってくるシーンも再び登場し、獅子舞のオジサンを夜通し看病するあたりも、第14話の夏代像と同じです。また、十一の「オレが倒れたら、誰が看病してくれるのかなあ」といった台詞には、十一の心の内側を垣間見るようなシリアス感があり、松木トーンとは少し異なります。

この第14話と第15話で、千野監督は13話までにあまり描かれなかった十一のダークな人間的な内面に入り込み、一方、夏代さんはより家庭的で古風な女性に描いて、温かさ、やさしさを強調しているように感じます。栗山夏代像の魅力やこのドラマの何とも言えない「心地よさ」は、この第14話、15話によるところが大きいのではないかと、あらためて思う次第です。

***

十一がケン坊とちり紙交換を終え、武田のアパートに戻ったときは既に日が暮れていました。武田のアパートを出ると、今にも雪が降りそうな寒さ。外まで十一に付いてきたケン坊は寂しげな表情で「ジャックー」と叫ぶ。この辺りも第13話までとは違ったちょっと重たいシーンですね...まあ、その話はさておき、この昭和の香りがぷんぷんするロケ地のアパートは、いったい何処にあったのでしょうか?雑居ファンとしてはとても気になるところです。

第19話にも、このロケ地のアパートが「さつき荘」の名で登場していたので、この第14話と第19話の映像の隅々までよく見ましたが、ドラマの映像からは、このアパートのロケ地を特定する手掛かりは得られませんでした。

他の雑居ファンやロケ地特定マニアの方々のサイトを検索していたところ、「昔の映画・ドラマのロケ地を探そう」というサイトに、このアパートは調布市多摩川にあったとの記述を見つけました。現在は建て替えられているが、グーグル・ストリートビューの2009年版には写っていたのこと。(サイトの管理人様、貴重な情報ありがとうございます)

早速、 ストリートビューを2009年にセットして、調布市多摩川を散策してみることに。調布市多摩川といっても範囲がかなり広いのですが、おそらく大映・調布撮影所の近くだと思いしばらく散策すると、ありました、ありました。調布市多摩川7丁目16番辺りです。

グーグル・ストリートビューの2009年版より


グーグル・ストリートビューの2009年版より

「昔の映画・ドラマのロケ地を探そう」というサイトによると、この情報はある雑居ファンから寄せられたものとのこと。それにしても、これを見つけるとは、この近辺の土地勘がある方だと思われます。おそらくこの近辺に在住の方ではないでしょうか?そうでないと到底見つけるのは難しいと思います。今では、こんな感じのアパートはめっきり少なくなりましたが、当時は、あちこち、ザラにありましたから。

早速、現地に赴き、写真に収めましたのでUPします。残念ながら、当時のアパートは取り壊されていますが、十一の背後に写っていた20km制限の標識が同じ位置に立っていたり、武田のチリ紙交換のトラックが停まっていた右手のスペースなんかに当時の面影が感じられます。毎度のことながら、消火栓や道路標識、そして道路の形状は時が経ってもあまり変わらないので、ロケ地の特定に非常に役に立ちますね。


2017年12月27日撮影。

***

皆様、2018年も良いお年を迎えますように。合掌。

コメント

人気の投稿