『雑居時代』の源流ここにあり(1)

今年はブルーレイ化までされ、数多くのファンに愛されているドラマ、『雑居時代』。このドラマは、同じくユニオン映画が製作した石立ドラマの第1作目『おひかえあそばせ』のリメイクであることは、ファンならずとも、今ではよく知られているのではないでしょうか。

『おひかえあそばせ』がリアルで放映された1971年当時の私の記憶を辿ると、「6人姉妹の家に、独身男が飛び込んできた?!今までになかったホームドラマ!」みたいなフレーズの番宣が頻繁に流れていたような気がします。

日活のポルノ路線に嫌気が差した、多くのベテラン映画人たちがユニオン映画に合流し、最初に製作したドラマがこの『おひかえあそばせ』。当時のホームドラマは「飯食いドラマ」とも言われ、家族全員で食卓を囲むシーンなどマンネリ感があったのも確かで、そういったものを意識して、「今までになかった」との文句が出てきたのでしょう。松木氏もインタビューで「アメリカのパラマウントやユニバーサルの映画みたいなコメディーを作りたくて、それまでのホームドラマにはないようなシチュエーションを考えました」と語っていましたね。

こうような書き方をすれば、この『おひかえあそばせ』というドラマが、彗星のごとく日本のドラマ界に現れた印象を与えますが、しかし、このドラマ自体にも実はその前身とも言うべきドラマが存在します。

以前、『雑居時代』のファンサイトで、石坂洋次郎原作のドラマとの類似性を指摘されていた方がいましたが、私も全くその通りだと思っています。中でも 1967年のドラマ『あいつと私』(NTV,日活)は『おひかえあそばせ』や『雑居時代』が、なぞっている部分がかなり多いドラマです。例えば...

制作陣
『あいつと私』のプロデューサーは小坂敬氏。脚本が松木ひろし氏。そして、千野皓司氏が全18回中、都合5回の監督をしています。この方々が、後に、『おひかえあそばせ』や『雑居時代』を制作することになるわけですね。

家族構成、配役
ドラマ版『あいつと私』は、石坂洋次郎の原作を松木ひろし氏がかなり脚色しています。 原作は主人公、黒田三郎たちの青春群像劇ですが、このドラマ版は、三郎や、相手役・圭子の家族のシーンを膨らませて、シチュエーション・コメディーの様相を呈しています。

西田金吾(父)、大坂志郎
西田久代(母)、加藤治子
西田圭子(長女)、松原智恵子
西田美紀(次女)、ジュディ・オング
西田妙子(三女)、小橋玲子
西田文子(四女)、松井八知栄
西田たつ(祖母)、英太郎

黒川三郎、川口恒
黒川甲吉(三郎の父)、十朱久雄
モトコ桜井(三郎の母)、宮城千賀子

1967年、ドラマ『あいつと私』(NTV,日活)

父親役を大坂志郎さんが演じているあたりや、大勢の姉妹という設定も、 『雑居時代』の源流ここにあり、という感じがしますね。俳優陣も、加藤治子さんが『雑居時代』、十朱久雄さんが『おひかえあそばせ』に出演していることや、川口恒さんの妹、川口晶さんが『雑居時代』に出演しているのも、何かつながりを感じさせます。

違っている点は、このドラマでは「お母さん」が居ることなどでしょうか。別の見方をすれば、松木氏は『おひかえあそばせ』のシチュエーションを作るにあたり、このドラマの設定に以下のような変更を加えたのだとも考えられます。

1.お母さんを死んだことにしてしまうと....
かつて、松木氏はインタビューでこんなことを語っておられました。
「普通のホームドラマでもお父さんがいて、お母さんがいて、子供がいてっていうんじゃなくて、家庭っていうのは母親の要素が一番強いんだから、じゃあ逆に母親がいなかったらどうなるのか...」

『おひかえあそばせ』池西家や『雑居時代』栗山家は、お母さんがいませんね。松木氏は、『あいつと私』の西田家から、まず母親役を消去したのでしょう。

2.黒田三郎は西田家にしょっちゅう出入りしているが、いっそのこと、西田家に同居させてしまったら... 同居させると、三郎は、『おひかえ』小早川薫、『雑居』大場十一となっていくわけですね。

3.モトコ桜井も西田家に同居させると、もっと面白いシチュエーションが生まれるのでは... このドラマをご覧になった方は、モトコ桜井を冨士眞奈美さんが演じたらぴったりだろうなー、と感じたはず。モトコ桜井は、『おひかえ』桜井さくら、『雑居』栗山春子の原型です。ちなみに、役名「桜井さくら」は「モトコ桜井」から取ったのでしょうね。偶然とは言い難いです。加えて、彼女達の夫役、桜井や青木も、モトコ桜井の夫、黒田甲吉のキャラクターを踏襲しています。

このように考えていくと、『あいつと私』を下敷きにして、『おひかえあそばせ』、ひいては『雑居時代』が制作されたのだと確信を深めていく次第です。

(つづく)

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