『雑居時代』、その季節感の心地よさ

当時、『雑居時代』を最初に観た時、石立鉄男さんが自分の家に下宿するという設定や、登場する姉妹達に付けられた名前から、「あれ?これは前にやっていたドラマと同じだ!」と心の中で叫んだのを思い出します。前にやっていたドラマとは、言わずと知れた『おひかえあそばせ』です。

『おひかえあそばせ』では、姉妹達に付けられた名は「さくら、梅子、菊枝、すみれ、あやめ、つぼみ」と花をテーマにしていました。そのリメイクである『雑居時代』では、春子、夏代、秋枝、冬子、阿万里と、今度は「季節」を名前に取り入れている。その類似性から「何と、安直に焼き直したものか」と思ったものでした。

ところが、さにあらず。後に『雑居時代』というドラマを振り返ってみた時、いつも「季節」を感じさせるシーンが浮かんできます。前身作『おひかえあそばせ』では、姉妹達の花の名には、特に意味はありませんが、『雑居時代』の場合、「季節」は名前だけの話ではなく、ドラマ全体のトーンを決める重要な要素になっているんですね。

『雑居時代』には全体を通して、季節を感じさせるカットやシーンが散りばめられています。また、衣装やライティングでも季節感を巧みに演出しています。その中でも、印象に残るシーンをピックアップしてみました。



1話、母・邦子を前にして、十一が蕎麦を食べるシーン。店の光線の加減、邦子の白い着物、ちょっと日焼けしたむさくるしい十一、そしてざる蕎麦」と、まだ夏の暑さを感じさせる演出。
同じく第1話、十一が栗山邸横の坂道を登ってくるシーン。緑濃い茂みからは草木のムッとした香りまでも伝わってきそう。(余談だが、この坂道の左側一帯は「成城三丁目緑地」。崖を下っていくと、森の中にきれいな小川が流れていたりして、自然をそのまま残している。)

物語は回を重ね、第9話、オープニングで十一が歩いていたのは成城学園前駅北口の「成城通り」。秋本番、色づいた銀杏並木のシーンはとてもカラフルな映像に仕上がっている。
同じく第9話、お母さんの墓参りシーンの落ち葉焚きは、雰囲気がある演出。十一が信さんと灯油ストーブの前で語り合うシーンも深まる秋を感じさせる。


第14話、寒そうな大晦日の夜、電話ボックスで倒れた十一。ひと晩明けて元旦、日の丸を掲げた栗山邸の前で羽子板で遊ぶ女の子たち。十一が入院した春子の病院には、栗山家姉妹達が、おせち料理や雑煮を持ってお見舞いに。暗く寒い大晦日の出来事から一転して、明るい元旦。このコントラストから、栗山家姉妹は一段と華やかに見える。夏代さんのお雑煮は本当に美味しそう。十一は彼女たちの暖かさをジーンと感じたに違いない。
第15話、ラストで十一が登ってきた坂道。第1話では緑濃く茂っていた背後の木々は落葉し、冬の様相を呈している。


何かと物議を醸しだす第24話だが、季節を感じさせるという意味では重要な回。伊豆のロケ・シーンは早春の柔らかい光を感じさせる。
最終話、春子が結婚式を挙げた東郷神社、梅のカットも印象的。おそらく、これは造花かも。

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以上、私の好みで「季節」を感じるシーンを選ばせていただきましたが、他にも、『雑居』ファンそれぞれ感じるシーンがあるのではないでしょうか?『雑居時代』の日常のシーンに散りばめられた季節感は、他の石立ドラマと比較しても際立っています。こうして見ると、制作スタッフ達はかなり意識して季節を演出していたのではないかとも思われます。

今更ですが、『雑居時代』は何気ない家族の心情の機微や恋のやりとりを、季節の移り変わりと共に、色彩豊かに描いたドラマなんだと強く感じます。もしも『雑居時代』に、このような季節感の演出も無く、また、ビデオ撮りだったら...と考えると、ちょっとゾッとしますね。このドラマが観る者をいつまでも惹きつける魅力、その1つが、巧みに演出された「季節感の心地よさ」なんだと思います。

補足

栗山邸玄関ホールから見える正面の樹の葉も、回を追って減っており、季節感が演出されています。
第3話
第9話

第15話

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