颱風とざくろ(2)

このドラマが制作された1969年は、日本が高度経済成長を続ける真っ只中でした。あちこちの道路は舗装工事でアスファルトの匂いが立ち込め、また、ビルの建設ラッシュで鉄を溶接する匂いも漂っていました。このドラマの映像を見ると、そんな当時の匂いと共に、東京の風景がものすごい勢いで変わっていったあの頃の空気感の記憶がよみがえります。懐かしさ半分といったところですが、そんな当時の空気を感じるいくつかの場面に触れてみたいと思います。

下の写真は、第6話から。英子(松原智恵子さん)とけい子(榊原るみさん)が歩いていたのは、西新宿、新宿中央公園あたり。この西新宿一帯は元々、淀橋浄水場の貯水池が広がっていましたが、浄水場が1965年に廃止され、その跡地に副都心開発の名の元、高層ビル群が建設されることになりました。このドラマが撮影された1969年当時は、ちょうど埋め立てが終わり、ビル建設が開始される直前でした。今とは全く違う広々とした風景が映像に記録されています。

ふたりの背後に見えるのは新宿駅方面の風景です。何もありませんね。この風景、今なら、都庁やKDDIなどの高層ビルが林立しているところです。

下の写真は向きを変えて甲州街道方面。ふたりの背後に見えるのは、ガスタンクです。今はこの場所に新宿パークタワーがドーンと建っています。実は新宿パークタワーのオーナーは東京ガス(東京ガス都市開発)なんですね。

下の写真も同じシーンから。けい子(榊原るみさん)の背後には「文化服装学院」の円形校舎が写っています。当時、西新宿で高い建物と言えば、ガスタンクとこのビルだけでした。このビルも1998年に22階建の高層ビルに建て替えられました。

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1969年は小田急線の塗装デザインが変わった年でもありました。下の写真は第5話、アナウンサーとなった英子が通勤するシーンから。映像に写っている小田急線車両は、ダークブルーとオレンジの旧デザイン。シリーズ前作『若い川の流れ』(1968)にもこのデザインの小田急線が写っていました。

一方、下の写真は第7話から。『気になる嫁さん』や『雑居時代』でおなじみのクリーム色にロイヤル・ブルーの新デザインです。小田急電鉄は1969年からこの新型車両を順次投入して行きました。新幹線を連想させるこの軽快なデザインの車両がホームに入ってくると、なんとなくワクワクし、新しい時代の到来を感じたものでした。高度経済成長に沸く当時の日本の空気感を象徴しているようにも思えます。

よく見ると、映像、左端には旧デザインの車両も写っていますね。

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下の写真も第7話から。坂本二郎(石坂浩二さん)が、成城学園前駅・北口商店街にある、佐久間葬儀社を訪れるシーンです。背後に工事中のビルが見えますが、このビルには後に、『気になる嫁さん』や『雑居時代』の撮影にも使用された、喫茶店「LOTUS」が開業することになります。

ロケ地となったこの通り、このドラマにたびたび登場しますが、そこに写っている当時の風景は世田谷村の垢抜けない駅前通りです。しかし、2年後の『気になる嫁さん』で、再び成城学園前がロケ地となり、この通りも登場しますが、そこには活気に満ちた商店街が写っていました。1969年ごろからこの辺りの沿線駅前商店街はどこも急ピッチで開発が進みました。高度経済成長が身近に感じられた出来事のひとつです。

下の写真は『気になる嫁さん』第34話から。左奥には「LOTUS」が見えます。

下の写真は『雑居時代』第3話から。

下の写真は、佐久間葬儀社のビル前からこの通りを撮影したもの。正面に見える青いビルにかつて「LOTUS」がありました。10年ほど前にこの辺りの線路は地下に潜り、成城学園前駅は大きな駅ビルに建て替えられました。今では、駅ビルやスーパーマケットで買い物を済ます人が多く、駅前商店街の衰退は悲しいほどです。 かつて、高度経済成長で活気に満ちた駅前商店街。あの頃の空気が懐かしいですね。

2017年8月18日、撮影。

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